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​バックストーリー
​前日譚 

日本がバブル経済に突入する少し前の1980年。若手弁護士の葦野徹(よしの とおる)は、所属する弁護士事務所が突如廃業する窮地に立たされていた。妊娠中の妻がおり、すぐにでも次の所属先を見つけねばならない中、葦野はかつての依頼人である民自党所属の政治家・月井尚人(つきい なおと)から、大阪・蒼天堀の「ある土地」に関する依頼を受ける。月井によれば、月井の知り合いの企業がその土地を購入するための契約をサポートしてほしいという。葦野は承諾し、その依頼を引き受けることにする。


その後の業務自体は驚くほど速やかに進行し、報酬も手に入るが、葦野は「月井の知り合い」が自分と直接コンタクトを取らず、終始月井を介してのみやり取りすることを不自然に感じていた。葦野は秘密裡に月井の弁をもとに調査するが、その会社は登記がなされているだけで事業の実態がないペーパーカンパニーであることが発覚する。葦野は月井を問い詰めようとするが、口封じとして月井に殺されかける。そこに月井の協力者であるという白樺寿造(しらかば じゅぞう)と名乗る男が現れ、葦野を「共犯者」として生かす提案をする。月井がそれに乗ったことで葦野は難を逃れるが、「依頼」の真相について聞かされることになる。

月井によれば「ある土地」は「墓場」と呼ばれる蒼天堀でもいわくつきの土地で、そこには政府(警察)と近江連合の因縁が潜んでいるという。1961年、蒼天堀に程近い”辻ヶ崎”出身のホームレスの男が、宿営していた土地(=墓場)において何者かに殺される事件が発生した。しかし辻ヶ崎が日雇い労働者をはじめとする貧困層の巣窟で、さらに差別的な扱いを受けた歴史のある地区であるために深入りを避けようとした警察は終始ずさんな対応を続け、それに辻ヶ崎の住人達が抗議したことで暴動が発生。多数の負傷者を出す事態となった。近江連合に辻ヶ崎出身の者が多かったこともあって、救貧的な考え方で「極道で最大多数の人間を幸福にする」ことを掲げていた当時の近江連合初代会長は一連の事件を悼み、蒼天堀のみならず辻ヶ崎一円に勢力を伸ばし、辻ヶ崎を守ることにする。


しかし初代会長の死・および二代目会長の就任後、次第にそのビジョンは崩れていき、二代目直下の組員が辻ヶ崎の労働者の日当をピンハネし、さらにそれを警察に贈賄するという事態まで起きるようになる。やがて近江連合は組織のアーキタイプである初代会長の哲学を引き継ぐ初代派と革新的・合理的な二代目派とに分裂し、組織の在り方、そして1961年の暴動以来買い手のつかなくなった「墓場」をめぐり対立していた。
 
そんな中実権を握る二代目派は「墓場」に固執すること自体が組織を疲弊させると判断し、「墓場」を手放す策略を講じる。それは1961年の殺人の犯人が、当時から長期政権を握る民自党幹部の息子であることをエサに、民自党に「墓場」の所有業者をかたる近江連合フロント企業とペーパーカンパニーの間での土地売買契約を演出させ、さらにフロント企業や「墓場」所有者に関する情報を捏造させることで「墓場」を永遠の空地にすることだった。二代目派にこの取引を持ちかけられた民自党は裏社会に顔の効く月井に一連の処理を依頼し、あろうことか工作資金まで工面して、「墓場」に関する事実を抹消しようとしたのだった。

葦野は狼狽するが、月井はこの計画は「この国の幸福を最大化するためのもの」であり、そのキーマンが寿造であると語る。寿造は初代会長派の一人で、二代目派の意向を裏切って月井と単身「契約」を交わしており、汚職に関与した二代目派の人物を始末して一連の事件を「なかったこと」にし、近江連合を初代会長の治世のように純粋化することを目的としていることを明かす。寿造によれば二代目派は急進的かつ利権ばかりに貪欲で、ひいては極道社会はおろか政府・カタギすらも食いつぶす恐れがあり、近江連合の実権を二代目派が握り続ければ幸福の総量が減ってしまうという。ゆえにここにいる三人が托生して「秘密」を抱え続けることが必要だと説く寿造に何も言い返せない葦野に口封じの金を渡し、月井は去る。さらに寿造は信用料として、事件終息後に何でも一つ願いを叶えるという「約束」を葦野にもちかける。

その後「墓場」に関する一連の事件は一切露見することなく、葦野は手にした報酬で自らの弁護士事務所を開業して安定した生活を送り、月井は政党内での地位を高めて政治家としての頭角を現していった。しかし葦野は大きすぎる秘密を抱え、その露見を恐れ続けるストレスから酒に走るようになり、1982年に離婚。第一子(護矢)を引き取るが、子どもの将来を考え、自責の念に追い詰められてしまう。
茫然自失のままさまよう葦野は、何の因果か大阪に流れ着き、近江連合直系組長となった寿造と偶然に再会する。あの時の「約束」かと語りかける寿造に、葦野は「どうかこの子を幸福にしてください」と腕に抱いた護矢を引き渡すのであった。

​バックストーリー

2020年12月、蒼天警備保障との業務提携とマーキュリーデュオ関西支社設立のために蒼天堀に滞在していた葛原は、月井桂(つきい けい)と名乗る警察官僚から、自身の会社の顧問弁護士である葦野徹(よしの とおる)が何者かに殺害された一報を受け東京に戻る。
葛原は月井に会い、葦野殺害にはかつての近江連合が絡んでいることを知る。その頃大阪では蒼天警備保障が半グレ集団の襲撃を受け、葦野の死との関連性が取りざたされていた。葛原は事件への対応で身動きが取れない大吾の代わりとして東京にやってきた真島とともに事件の真相を探るべく行動を開始する。

真島のつてで神室町の情報屋・サイの花屋に接触した葛原は、花屋の部下のホームレスの再就職を支援することを条件に事件に関する情報を求めると、葦野を殺した犯人、半グレによる大阪襲撃をけしかけた犯人が、ここ数年神室町に出入りしていた元近江連合白樺組構成員・風見琉衣(かざみ るい)であることを知り、町の住人などから話を聞くが、殺人の動機になるような話はなく八方塞がりになっていた。そんな中、葦野が生前持っていた大阪支部用の土地の権利書が偽物にすり替えられていることが発覚し、葛原・真島は大阪で白樺組との関連性について調べることになる。

真島の知己である山形や町の住人の話から、白樺組は東城会・近江連合同時解散の2年前(2017年頃)に近江連合から離脱していたこと、風見は元々ただの半グレだったが最後の組長・白樺護矢(しらかば もりや)に助けられ心酔していたこと、その護矢は先代組長の白樺寿造(しらかば じゅぞう)の遺言に書かれた「墓場」と呼ばれる土地の入手に執心していたことが分かる。


葛原が大阪にやって来た月井にこれを問うと、月井は自身も近年白樺組の動きを追っていたことを明かす。月井によれば護矢が近江連合から離反したのは近江に「墓場」の利権獲得に手出しさせないためであり、また「墓場」の特徴が、葛原が葦野に依頼して購入した土地と一致しており、葦野を殺して本物の権利書を手中に収めた今、白樺組は葛原自身を標的にする可能性が高いという。


そんな中、月井に警視庁から連絡が入り、二日後の先代組長(寿造)の法事(13回忌)に際して、護矢を含む白樺組の全勢力が蒼天堀に結集することが判明する。月井は本庁に応援を要請して葛原を保護する代わりに風見の身柄確保に協力するよう真島に頼むが、その裏で護矢と密会し、「最後の時は近い」と語りかける。

当日、真島は会場を訪れるがそこに月井の姿はなく、護矢の命を受けた白樺組組員らの強襲を受けるがこれを退ける。護矢は組員らを返り討ちにした真島の正体を見抜き、神室町を征圧して新たな秩序を作り、東城会・近江連合の解散によって激増したドロップアウターを「真に救済する」計画を語り、その場を後にする。


同刻、葛原も警察と合流するはずの別所で白樺組組員に襲われるが、これを予見していた山形の手引きで難を逃れ、真島に合流する。そこに真島を月井の部下と勘違いした風見が部下の半グレを率いて襲撃を加えるがこれを退け、葛原・真島は事件の真相を白状させる。

風見によれば月井は先代組長・白樺寿造がある汚職事件の事後処理で関わった政治家の息子で、東都大卒のキャリアでありながら白樺組を通して裏社会との強いつながりを持ち暗躍していた。「極道で最大多数の人間を幸福にする」という寿造の在り方に心酔しながら、表社会での名声を求めていた月井は「日本の極道に未来はない」という晩年の彼に共鳴し、寿造とは反対に「極道であり続けようとする」護矢ひとりを犠牲に白樺組全員を堅気として更生させる密約を交わし、表向きには独力で白樺組を壊滅させた手柄を立てることを計画した。


護矢についていこうとする者を事件や事故の名目で月井が消したため、現在の白樺組には月井に従順な者しか残っておらず、それはもはや月井が目的を達成し、名声を得るための手駒にすぎない。組員たちが護矢の命に従って真島を襲ったのも葛原を拉致しようとしたのも演技であり、さらに二日前の警視庁からの連絡、ひいては先代組長の遺言や「墓場」の話は全て月井による捏造であり、護矢は父への憧憬につけこまれ、偽りの忠誠を向けられながら、月井と組員たちの人柱にされかけている。かつて護矢に救われた自分はそれをどうしても看過できず、月井の計画に乗ったふりをしつつ、護矢の代わりに葦野を殺して権利書をすり替え、護矢が罪に問われることを避けようとしたという。

ならばなぜ個人的に葛原を標的にし、蒼天警備保障を襲撃したのかと真島が問うが、その直後に風見は月井に射殺されてしまう。月井は葛原に対し「一介の犯罪者と国家権力、どちらにつくのかはよく考えた方がいい」と言い残し、その場を去る。

そんな中、葦野の事件を捜査していた神室警察署から葛原の下に「相続人としての手続き」を求める連絡が入る。混乱する葛原だったが、葦野の遺留品の中にあった家族写真を見、葦野が幼い頃に離婚した実の父親であると確信する。そしてその写真の裏には、葦野の字で自身の名と「護矢」の名が記されていた。さらに葦野の日記から、葦野は月井の父親(政治家)の命令で白樺寿造が事後処理をした汚職事件の片棒を担がされていたこと、護矢は葦野と葛原の母の間に生まれた長子で、離婚をきっかけに葦野に引き取られたものの、汚職事件への関与という弱みにつけこまれ、跡継ぎを求める寿造の子として育てられたことが明らかになる。風見はこの事実を知って護矢を憐れみ、葛原を手にかけようとしたと考えた真島は、葛原にこの現状をどうしたいのか問う。葛原は護矢を受け入れられるかは分からないとしながらも、神室町や蒼天堀の人々と結託して月井の暗躍を止めることを決める。

翌日の同刻、月井は護矢の「計画」に乗る演技の一端として、葛原らの動きを封じるべく警視庁へ蒼天警備保障の実体が「利権目的の暴力団再結成」であるという偽りの報告をしようとしていたが、堂園コンツェルンの協力で風見のスマートフォンを解析して得られた護矢と自身が密談している写真をリークされ、逆に動きを封じられる。組員を率いて東上する護矢を葛原・真島ともども討つことを決め、白樺組組員に護矢を襲わせるだけでなく、自身の手中にある機動隊を率いて神室町を無理やり制圧しようとするが敗走する。葛原・真島は月井と護矢を追い、最後の決着をつけに向かう。

機動隊のヘリで逃げ延びた埠頭で月井は護矢と対峙し、葛原や真島を目の前にしながら、護矢の出生の真相や組員たちの寝返り、遺言の捏造などを全て暴露する。寿造からして自分は人柱に過ぎなかったこと、教唆とはいえ肉親を殺したことにショックを受けた護矢を言葉巧みに手中に収めようとするものの、それを「自分の犠牲で組員たちが幸せに生きられるなら構わない」と甘受し、罪を償った上でなおも「極道で最大多数の人間を幸福にする」という父親の本懐を遂げようとする護矢に逆上し発砲。護矢を昏倒させ、葛原を片付けたうえでヘリにて逃亡しようとするが、真島の前に敗北し、逮捕された。

​後日談

事件終息後、葛原は葦野の葬儀、関西支社長への業務引き継ぎ、蒼天警備保障との提携事業など多忙な日々を送っていた。警察庁上層部が出回る情報を限定したことで「神室町と蒼天堀を救った」という手柄が取りざたされるいっぽうで、水面下では護矢から援助を拒された葛原は、葦野の死も含めて「肉親一人救えずに何が救いか」と考え、また自分が関わったことで蒼天警備保障を再び裏社会の騒動に巻き込んだことを深く悔いるようになっていた。


また葛原ともども「神室町と蒼天堀を巨悪から守り抜いた」という手柄を立てた真島も、事件の渦中で目の当たりにした様々な人間模様から、極道社会を終わらせることの影響、そして極道社会で生きてきた自らの本質が他者を因縁に巻き込むことに関して苦悩していた。すれ違いはしだいに大きくなり、ついには自身を突き放すような物言いの真島に葛原が思わず声を荒らげたことで、互いに距離を置くようになっていった。

その矢先に、葛原は息子の逮捕によって辞職に追い込まれ報復を目論む月井尚人から、自身の実兄が白樺護矢である情報を闇に葬ってマーキュリーデュオを守る代わりに、蒼天警備保障をフェイクニュースによって糾弾し瓦解させる取引を持ちかけられる。さらに交渉材料として護矢の命をちらつかせる月井の言に懊悩し、護矢の存在、恩義ある蒼天警備保障、自身の経営者としての責任の間で葛原は八方塞がりになってしまう。


そんな中、真島は堂園聖莉を通じて葛原が月井尚人から報復の取引を持ちかけられていることを知り、葛原と一対一で話をすることを決め、その胸中を聴く中で葛原が自身と同じく「もう誰も不幸にしたくない」という願いを持つことを知り和解する。以降は再び共に行動して蒼天警備保障・マーキュリーデュオ・護矢のいずれも守ることを決意するとともに、両社にすべての事情を明かしたうえで自身の生い立ちも含め月井尚人の思惑を世間に公表するという葛原の決断を最後まで見届けることを決める。

数日後の同刻、護矢の病室を琉衣に近しい元白樺組組員達が訪れ、謝罪と葛原が月井尚人に脅され、生い立ちごと月井の思惑を公表することで自身を守ろうとしていることを護矢に伝える。葛原の行動に言語化不能な「かつて寿造に感じたものと似た感情」をおぼえた護矢は、手負いの身ながら単身病院を抜け出し民自党本部に乗り込むが、直後に事情を知る月井の弟子と名乗る民自党幹部によって制止される。


その男は民自党は2019年の青木幹事長の一件など、度重なる不祥事から内政改革を計画しており、辞職後もなお裏金によって政党内にのさばる月井を失脚させる意向が固まり、刑事処分のための証拠も集まっていると言い、下手に動かず警察が動くのを待つように護矢を説得する。しかし月井の「刻限」に間に合わないとしてこれを拒否した護矢はSP達を退け月井と対峙し、計画が狂い半狂乱になった月井から刺傷を受けながらも決して手を出さずに時間を稼ぎ続け、月井を銃刀法違反による現行犯逮捕に至らしめ、自らの半生にケジメをつけた。


その裏で葛原は月井から提示された刻限が迫る中会見に臨んでいたが、開始直前に月井が銃刀法違反の罪で現行犯逮捕されたというニュースが入る。これを直感で病床を抜け出した護矢の手引きと悟った葛原は会見を急遽中断して護矢の元へ向かい、深手を負った護矢を病院へ搬送する。

その後、「墓場」の因縁に真に決着をつけ、一命をとりとめた護矢とも少しずつ歩み寄り始めた葛原は、本社のある東京に戻ることとなる。それを見送る真島に葛原は従来の「人は自らの本質を超えられる」ではなく、「本質を否定せずとも希望を持って生きられる社会の実現」という新たな信念を語り、それぞれの場所で共に邁進することを約束するのであった。

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